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第52章 金額は自分で書いてください 

熊谷湊斗は怒られて愕然としたが、安田が負けたせいで機嫌が悪いかもしれないと思って、気にしなかった。「あの浮気女と話したくない。むしろいつも避けるようにしてた」

「そうなんですか?」

三井鈴の冷たい声が熊谷湊斗の背後から伝わって来て、彼はビクッとした。

彼は振り返って後ろを見て、地団太を踏んで言った。「お前、歩くときなんで音がしないんだよ!」

「私がここにいるんですが、何か聞きたいことがありますか?」

三井鈴は手を抱えて立ち止まり、威圧するような視線で彼を見ていた。明らかに熊谷湊斗の罵った言葉を聞いた。

安田翔平はただ静かに一歩引いて立っているだけだった。三井鈴を直視していないが、彼女を何度もちらりと見ることはあった。

なぜか彼はモヤモヤしていた。

「ちっ、お前みたいな女に興味がない。こっちに近づくな。速くパトロンのとこへ戻りなさい」熊谷湊斗は手を振って軽蔑の態度を示した。

ハイヒールを履いた三井鈴は数歩前に進み、熊谷湊斗は何故か数歩後退した。「あなたが噂話を言うときはね、おばさんみたいだって言われたことありますか?」

熊谷湊斗は一瞬にして怒り出した。「お前!離婚したのに、まだ安田の前でうろついて、仕事の邪魔をする。お前みたいなキモイ女にとやかく言われる筋合いはない。笑わせるな」

ちょうどその時、清掃員が清掃車を押して通り過ぎた。三井鈴は床を拭いた水の入れたバケツを手に取り、熊谷湊斗にかけた。

熊谷湊斗は今日、白い亜麻素材のスーツを着ていた。水をかけられると、服の色が変わるだけでなく、胸も透けて見えた。

全裸にされてみんなに見られるよりも恥ずかしかった!

彼は胸が見られないように上半身を覆いながら、下半身を覆おうとしていたが、出来なかった。とても滑稽で、人を笑わせるぐらいだった。

「三井鈴!よくも水をかけたな!」

「これはパトロンのやることかな?」三井鈴は財布から小切手帳を取り出し、自分の名前を早速書き、熊谷湊斗の前に行って彼の襟元から中に入れた。「金額は自分で書いてね、服代と慰謝料は全部出してやりますから」

「次にこのようなことがあったら、かけるのは水じゃなくなりますよ」

言い終わると、彼女は去っていった。

熊谷湊斗は小切手を手に取り、やはり金額が書かれていない。書いてあったのは三井鈴の名前だけだった。

彼は振り返って安田翔平
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